「練習しているのに、ペダルトーンだけ全然出ない」——そう悩んでいるお子さんは、ほんとうにたくさんいます。
「才能がないのかな」「楽器が悪いのかな」とあきらめかけているとしたら、ちょっと待ってください。ペダルトーンは才能の問題ではありません。体の使い方が少しずれているだけで、正しい方向に整えると音は変わります。
息の量・アンブシュア(口の形)・喉と口の中の状態——この三つがかみ合ったとき、低音域はびっくりするほど豊かに鳴りだすケースがあります。
この記事を書いているのは、音高・音大を卒業し、中学・高校の音楽の教員免許も取得した経験をもつ立場から、今も子育てをしながら音楽教育に向き合っている者です。実際に関わった生徒や奏者のエピソードも交えながら、すぐに試せる具体的なコツをお伝えします。
この内容を実践したことで、2〜3週間後に「音の質が変わった」と感じるケースが出てきました。今まさに壁にぶつかっているお子さんのために、ぜひ最後まで読んでみてください。

ペダルトーンとはどんな音か|トロンボーンの音域の基本
「ペダルトーン」という言葉は知っていても、楽器の中でどんな位置づけにある音なのか、意外と説明できない人が多いです。
まずここをはっきりさせておくと、練習の方向性がぐっと定まります。仕組みがわかると、「なぜ出にくいか」の理由も見えてきます。
ペダルトーンの位置づけと、なぜ難しいと感じるのか
ペダルトーンとは、各ポジションで出せる最も低い「基音」のことです。
トロンボーンは倍音列という音の並びの上に成り立っていて、ペダルトーンはその列の一番下に位置します。プロの奏者でも「出せるようになるまで時間がかかった」という声が少なくなく、特にトレーニングを始めたばかりの段階では音が揺れたり、音量が落ちたりするのは珍しいことではありません。
難しいと感じる理由の多くは、唇の振動の仕方が通常の音域と根本的に違う点にあります。高い音では唇が細かく速く振動しますが、低い音では唇が大きくゆったりと動く必要があります。この切り替えを体が覚えていないうちは、音が出ても細くなったり、すぐに息が続かなくなったりするわけです。
「F#まで出るけど音量が出ない」——この状態は、すでにペダルトーンの入口には立っているということです。あとは体の使い方を整えれば、もう一段階先に進める可能性が十分にあります。
テナートロンボーンでペダルトーンを出すことの特性
テナートロンボーンでペダルトーンに挑む場合、バストロンボーンに比べて条件が厳しくなることは知っておきたいところです。
マウスピースが小さく、唇がカップに収まるスペースが限られるため、低音に必要な「唇の大きな振動」を作りにくい構造になっています。だからといって不可能ではなく、ペダルF#や、調子のいい日にはペダルFあたりまで出せるようになったケースは実際にあります。
楽器のせいにするより、今手元にある楽器で何ができるかを考えること——これが、着実に上達していく子の共通点です。まじで、そこだけが違います。
音が出ない・音量が小さい原因はここにある
「練習しているのに音量が全然出ない」——この状態が続いているなら、原因を特定しないまま練習を重ねている可能性が高いです。
力まかせに吹き続けても、原因にアプローチできていなければ時間を無駄にするだけです。二つの代表的な原因を確認します。
息の量と速さのバランスが合っていないケース
ペダルトーンで音量が出ないとき、まず疑うべきは息の量が足りていないことです。
「速い息で吹けば大きな音が出る」と思っているとしたら、それがダメダメな方向に進んでいる原因かもしれません。低音域に必要なのは速さではなく、ゆっくりとした大量の息です。高音になればなるほど息は速く細くなり、低音になればなるほど息はゆっくりと太くなる——これが基本の流れです。
ある吹奏楽部の生徒が、ペダルトーンを練習し始めた最初の数週間、「音が出るのは一瞬で、すぐ息切れになる」と話してくれたことがあります。実際に吹き方を見ると、高音と同じ速さの息を出し続けていました。息の使い方を変えた途端、持続時間が伸びたというエピソードはこれに限った話ではありません。
アンブシュア(口の形)が固まりすぎているケース
もうひとつよくある原因が、アンブシュアが高音域のまま固定されていることです。
高い音を出すときに作った口の締め方を、低音でもそのまま維持しようとすると、唇が大きく振動できる余地がなくなります。「アンブシュアを変えたら音が崩れる気がして怖い」という感覚は理解できますが、低音では意識的に顎を下げ、口の中の空間を広げることが必要です。
アンブシュアのシフトについては、「必要か不要か」で演奏家の意見が分かれる部分もあります。ただ、技術が十分に身についていない段階では、まず柔軟にシフトを試みるほうが音が出やすいというケースが多いです。完成形にこだわるより、まず音を出せる状態をつくることのほうが先決です。
息の使い方を変えると音が変わる|呼吸と体の土台
ペダルトーンを出す上で、息の使い方は土台中の土台です。ここがブレると、どんなに口の形を工夫しても音は鳴りません。
具体的にどんな感覚で息を使えばいいのか、イメージしやすい言葉で整理します。
ガラスを曇らせるようにゆっくり・たっぷり吐く感覚
「ガラスを曇らせる」ような息の使い方——これは、ペダルトーンの息の感覚をつかむのに非常に役立つたとえです。
冬の窓ガラスに息をフッとかけるあの感じ。速くなく、ふわっとして、でも量はたっぷりある。あの息の質が、ペダルトーンを鳴らすのに必要な状態に近いです。
「ブラー、ブラー」という声を出す感じで唇を動かしてみると、低音域に近い唇の動きが体験できるケースがあります。舌を歯の裏に当てる高音域のタンギングとは使い方が変わってくることも、意識してみてください。
最初は2〜3拍しか伸ばせなくても、それで十分です。続けていると、肺の使い方と唇の感覚が少しずつつながってきます。
低音を鳴らす前にしっかり肺を満たす吸い方
吐く前にしっかり吸えているかどうか——ここを省いている子が、想像以上に多いです。
曲の中でペダルトーンが出てくるとき、前後の音符に気を取られて、直前の吸気があいまいになるケースがよくあります。まず、問題の音だけを取り出して単独で練習し、「焦らず、ゆっくり、肺を完全にいっぱいにしてから吹く」という順番を体に覚えさせることが大切です。
吹奏楽のある曲で、5拍続くペダルトーンが吹ける状態のはずなのに息が続かない——という相談を受けた際、確認したら前の小節から息が半分しか入っていませんでした。十分に吸えていれば解決できた、というのは珍しくないケースです。
アンブシュアを整える|低音域に合った口と顎の使い方
息の土台が整ったら、次は口と顎の形です。ここの感覚が合うと、音がパキッとはまる瞬間が訪れます。
アンブシュアは繊細なテーマですが、基本の方向性さえつかめば、あとは練習が積み上がっていきます。
顎を下げてマウスピースの位置を調整する「ローセット」
「ローセット」とは、顎を下げてアンブシュア全体を少し下方向にシフトさせた状態のことです。
マウスピースの位置は変えず、顎を下げることで口の中の空間が広がり、唇が大きく振動しやすくなります。「マウスピースの下に唇が少しくる感じにしたら音がしっかりした」という話を聞いたことがあり、まさにこの感覚が近いです。
注意したいのは、緩めすぎてしまうことです。顎を下げても唇の筋力はある程度保つ必要があります。だらっとした状態では音程の芯がなくなります。チューナーで音程を確認しながら行うのが、確認作業として非常に有効です。
舌の動かし方が変わると音の立ち上がりが変わる
「タンギングしているのに音の頭がぼやける」——これは、舌の使い方が音域に合っていないサインかもしれません。
高い音域では歯の裏に舌を当てるタンギングが自然ですが、低い音域ではそのやり方が合わないケースがあります。「ブラー」という音を口で作るような、唇で舌を動かす感じに切り替えると、音の立ち上がりに必要な空気の流れが生まれやすくなります。
ある中学生が、低音のタンギングだけ繰り返し練習した結果、3週間後には「音の頭がはっきりした」と話していました。細かい変化ですが、積み上げると大きな差になります。
喉と口の中を広げる|体の内側からのアプローチ
息とアンブシュアの外側が整ってきたら、今度は体の内側を意識する段階です。
喉の奥や口の中の状態は目に見えませんが、ここが変わると音の太さと豊かさが明らかに違ってきます。
喉仏を下げて低い振動を生み出す感覚のつかみ方
喉仏を意識的に下げると、低音が出やすくなるケースがあります。
「お」の口で、できる限り低い声を出してみてください。そのときに喉の奥がぐっと下がる感覚があると思います。あの状態が、ペダルトーンを鳴らすときに体の内側で起きていると良いです。
これは声帯の位置が変わることで、息の中に低い周波数の振動が生まれやすくなるためと考えられています。ホルン奏者を対象にしたMRI動画でも、低音域を吹くときに喉仏付近が動いている様子が記録されていて、金管楽器全般に共通するアプローチだという見方もあります。
軟口蓋・顎・首の筋肉の余分な力を抜くポイント
ペダルトーン付近の低い音域がどうしても鳴らせないとき、軟口蓋や口の内側に余計な力が入っているケースが多いです。
唇だけで音を出しているわけではなく、唇とつながった上の部分(軟口蓋など)、下の部分(顎・首・喉の筋肉)が一緒に動いています。この周辺に不要な力が入ると、唇の振動が妨げられます。
特に上唇につながる軟口蓋の力を抜いてみると、口の内側がわずかに振動する感覚が生まれてくることがあります。その状態が、音がうまく鳴っているときの内側の感覚に近いです。力を完全に抜くより「ほんの少しだけ残す」のがポイントで、色々試しながら探してみてください。
首や喉の力みは、本人が気づいていないことがほんとうに多いです。鏡を見ながら、首に余分な力が入っていないか確認する習慣をつけるだけで変わる子もいます。
ロングトーンで音を育てる|ペダルトーン上達の練習法
ここまでの体の使い方を頭に入れたら、あとは練習で音を育てていく段階です。
ロングトーンは地味に見えますが、音の質と音域を同時に鍛えられる、非常に効率の良い練習法です。正しくやれば、確実に積み上がります。
出せる音から一音ずつ丁寧に下げていくロングトーン
ある程度吹けるペダルトーンから始めて、一音ずつ丁寧に下げていく——これが、ペダルトーンのロングトーン練習の基本的な進め方です。
いきなり最低音を狙いにいくのではなく、今出せている音を10〜20拍のロングトーン(テンポ60を目安に)でしっかり鳴らし切ってから、半音下げる。その繰り返しです。強めのダイナミクスで吹くのが大切で、ふわっとした音量では筋肉が正しく使われません。
バストロンボーン奏者として活動している方が「ペダルFが鳴りだし、ペダルDに希望の光が見えたのは2週間後だった」と振り返っていました。毎日コツコツ続けることで確実に変化が起きるケースがあります。
リップスラーを組み合わせた低音域トレーニングの進め方
ロングトーンに加えて、リップスラーを使った練習が低音域の柔軟性を育てるのに効果的です。
1オクターブ上の音からゆっくりと滑らかに下りてきて、最後の1音がペダルトーンになる——という練習方法があります。この進め方の特徴は、上の音域のアンブシュアの状態を保ちながら低い音に移ること。いきなりペダルトーンを出そうとするより、音をつなげながら降りるほうが体の使い方が安定するケースがあります。
ただし、過度に急いで音域を広げようとすると、筋肉が順応する前に崩れる可能性があります。「楽器がしっかり響いてから次に移る」くらいのゆっくりとしたペースが、結果的に一番早く上達するケースが多いです。
練習で気をつけたいこと|アンブシュアを崩さないために
ペダルトーンの練習には、やりすぎや方向を間違えたときのリスクがあります。
知らないまま続けると、気づかないうちにアンブシュアが崩れていくことも。事前に知っておくだけで、避けられるトラブルはたくさんあります。
無理に音域を広げようとしたときに起きやすいこと
ペダルトーン練習に偏りすぎると、アンブシュアのバランスが崩れることがある、というのは演奏者のあいだでも語られることです。
特に、低音が出やすい形に口を無理に変えながら練習を続けると、通常の音域で使うアンブシュアの安定性が損なわれることがあります。あるトランペット奏者が「ペダルトーンを吹きやすい形に変えながら続けていたら、中音域の音程が不安定になった時期があった」と話していたケースがあります。
アンブシュアタイプによってリスクの高低があるとも言われており、指導者のいる環境で取り組むのが安心です。特に吹奏楽部でひとりで試みる場合は、顧問の先生や専門のレッスン講師に相談しながら進めることをおすすめします。
ペダルトーン練習が高音域にも影響する理由
ここがほんとうに面白いところなのですが、ペダルトーンを正しく練習すると、高音域の響きも良くなるケースがあるのです。
口の中の空間を広げ、喉を開き、余計な力を抜いてペダルトーンを鳴らす練習は、そのまま高音域でのリラックスした吹き方につながります。「ペダルFが鳴りだしたころから、高い音域の響きも変わってきた気がする」という話がまさにそれです。高音の練習量は増やしていないのに、です。
体の土台が整うから、高音も伸びる。これはトロンボーンに限らず、金管楽器全般に共通して語られる感覚です。
まとめ:トロンボーンのペダルトーンを出すコツ|低音域を豊かに鳴らすための体の使い方
ここまで読んでくれて、ありがとうございます。
ペダルトーンが出ないのは、才能の問題ではありません。体の使い方が少しずれているだけで、正しい方向に積み重ねていけば、音は変わります。まじで、それだけのことです。
今日お伝えしたことを、一度に全部やろうとしなくていいです。一つ試して、音が変わる感覚をつかんだら、また次の一つ。その積み重ねが、半年後・1年後の音を作っていきます。

| 確認ポイント | 意識すること |
|---|---|
| 息の量 | ゆっくり・たっぷり。ガラスを曇らせる感覚 |
| 吸い方 | 肺をしっかり満たしてから吹く |
| 顎の位置 | 下げて口の中の空間を広げる(ローセット) |
| 舌の使い方 | 低音域は「ブラー」の感覚で柔らかく |
| 喉の状態 | 喉仏を下げ、絞らない・広げる |
| 余計な力 | 軟口蓋・顎・首の余分な緊張を手放す |
| ロングトーン | 出せる音から半音ずつ丁寧に下げる |
| リップスラー | 1オクターブ上から流れるように降りてくる |
「ペダルトーンなんて自分には無理」とあきらめかけているお子さんを見ていると、ほんとうにもったいないと思います。音が出た瞬間の顔——あれを見たくて、この話を続けているんです。
体の使い方を変えると、音楽は変わります。そしてその変化が、子どもの音楽への向き合い方を変えることがある。この時期の数年間は、二度と戻ってきません。だから今、正しい方向で取り組んでほしいのです。

音高・音大を卒業し、中・高音楽教員免許を取得、吹奏楽の外部講師の経験をもとに、子どもの音楽教育について日々深く考えながら子育てをしています。自分の子どもにも音楽の楽しさと学ぶ喜びを大切に伝え、成長を感じてきました。
私が大切にしているのは、子どもが音楽を嫌いにならず、自分らしい感性を育みながら、本当に成果につながる学び方を親子で見つけていくことです。間違った練習や無駄な学習で大切な数年間を失うことなく、親御さんと二人三脚で歩み、お子さまの青春の時間を実りあるものにするお手伝いをしたいと考えています。
未来の日本を担う子どもたちと、そのかけがえのない親御さんを支え、音楽を通して豊かな心と希望を育てることが私の願いです。

