「ロングトーン30秒やれと言われたけど、18秒しか出ない」——そんな悩みを持つお子さんや親御さんからの相談は、本当に多いです。
ところが、30秒という目標の根拠を誰も説明してくれていないケースがほとんどです。何秒が正しくて、何拍が現実的なのか。それを知らないまま練習を重ねると、音が悪くなる方向に進んでしまうことがあります。
結論からお伝えします。BPM60で8〜16拍(8〜16秒)を、きれいな音で安定して出せることが基本の目標です。30拍(30秒)は、音域や音量によってはプロでも難しい水準です。18秒出ているなら、それはすでに十分な域にいます。
この内容では、目安となる拍数・秒数の根拠、腹式呼吸の確認方法、秒数を伸ばす2つの練習アプローチ、よくある失敗の対処法、そして家でできる息のトレーニングまでをまとめています。
音高・音大を卒業し、中学・高校の音楽教員免許を取得した経験から、お子さんの大切な練習時間を無駄にしてほしくないという思いで書きました。数字だけ追いかける練習から、音の質を育てる練習へ。今日から変えられます。

フルートのロングトーンは「何秒」が目安なのか
「30秒続けられるようになれ」と顧問の先生に言われた、というエピソードはフルートあるあるです。でも、そもそも「何秒が正解か」を知らないまま練習を続けているケースが多い。まずここをはっきりさせます。
BPM60で8〜16拍が基本の達成目標
フルート経験者の間でよく語られる目安があります。BPM(テンポ)60で8〜16拍、つまり8〜16秒程度を安定して出せれば、基礎としては十分だということです。
BPM60というのは、メトロノームが1秒に1回カチッと鳴る速さ。その8拍で8秒、16拍で16秒になります。
ロングトーン拍数の目安(BPM60)
| 段階 | 拍数 | 秒数換算 | 目安 |
|---|---|---|---|
| 入門期 | 7〜8拍 | 約7〜8秒 | まず目指すライン |
| 基礎定着 | 16拍 | 約16秒 | 十分な水準 |
| 上級者 | 20拍以上 | 約20秒以上 | 息の効率化が身についてきたサイン |
吹奏楽経験のある方のコメントで「65テンポのトリル10小節分伸ばすとか普通にある」という声があるほど、上を見ればキリはありません。ただ、まず16拍をきれいな音で出せることが先決です。
大事なのは「何秒続けたか」ではなく「どんな音で続けられたか」。拍数の数字より、音の質を先に見てほしいです。
30秒(30拍)は初心者・中級者にとってかなり難しい水準
「目標は30秒」と言われて18秒しか出ず落ち込んだ、という話が吹奏楽部でよく出てきます。でも、ちょっと待ってほしいです。
フルートはトランペットやクラリネットと違い、吐いた息の多くが管の外に逃げてしまう構造の楽器です。他の管楽器と比べて息が続きにくいと感じやすいのは、楽器の仕組みからして当然のことです。
BPM60で30拍(=30秒)というのは、音域や音量によってはプロのフルーティストでも難しいケースがあるとされています。中音域のDやGなど鳴らしやすい音を最小音量で吹いても、かなりきつい水準だという声もあります。
| 目標拍数 | 難易度の目安 | 対象レベル |
|---|---|---|
| 8拍(8秒) | 入門レベルで到達可能 | 始めたばかり |
| 16拍(16秒) | 基礎がついてきた証 | 中学生〜高校生 |
| 20拍(20秒) | 息の効率化が進んでいる | 中〜上級者 |
| 30拍(30秒) | 上級者でも難しい水準 | かなりの熟練者 |
18秒出ているなら、それはすでに「必要十分」な域にいます。30秒という目標に向かって焦って練習を重ねるより、16〜18秒をより美しい音で安定させる方が、演奏の質は確実に上がります。
数字だけ追いかけると、音がダメになります。ここはほんとに注意してほしいポイントです。
秒数より大切な「目的」の話
「ロングトーン何秒できる?」という会話、部活でよくありますよね。でも、その数字競争がじつは上達の邪魔をしているケースがあります。ロングトーンをやる「理由」を先に整理します。
ロングトーンは「長く吹くこと」が目的ではない
ロングトーンとは、一定の音を長く保って吹く練習のことです。これ自体は正しい。ただ、「長く吹くこと」そのものが目的になった瞬間、練習の質が落ちます。
本来の目的は何かというと——
- 音程の感覚を養うこと
- 息のコントロールを身につけること
- 透明感のある、きれいな音色をつくること
- 演奏全体の土台となる「安定した音」を手に入れること
「ppでの発音を美しく長く持続させる」とか「音程のブレをなくす」とか、目的があればそこに向かった練習ができます。目的なしに「とにかく長く」だけやっていると、ただ苦しいだけの時間になりかねません。
ロングトーンは、演奏の筋トレです。正しいフォームの筋トレでないと、変なところに筋肉がつきます。
目的があいまいなまま続けると悪い癖がつく可能性がある
「ただ長く伸ばすこと」を目的にした練習を続けると、どうなるか。息が切れてきたとき、無意識に胸式呼吸に切り替えて苦しそうに吹く癖がつくケースがあります。
音が乱れてきても「とにかく続ける」という習慣がつくと、音のブレに気づかなくなることも考えられます。良い音で練習することが大前提で、それができていない状態で拍数だけ増やしても、悪い吹き方を体に覚えさせるだけです。
「なぜこの練習をするのか」を子どもと一緒に確認してほしいです。顧問の先生に目的を尋ねることもとても大切です。外部講師がフルーティスト以外の場合、フルートの特性を理解していないこともあるという話もあります。
目的がはっきりすれば、練習は劇的に変わります。
正しいロングトーンのやり方
「毎日やっているのに音が変わらない」場合は、多くの場合、やり方に原因があります。
正しい体の使い方と意識のポイントを、順番に整理します。
腹式呼吸が土台——胸式で吹いていると音は安定しない
フルートは腹式呼吸で吹く楽器です。胸式呼吸で吹き続けると、音が安定せず、苦しそうな演奏になります。そしてほんとに多いのが、自分では腹式のつもりなのに実は胸式、というケースです。
腹式呼吸のチェックポイント:
- 息を吸うとき → お腹が自然に膨らむ
- 息を吐くとき → お腹がへこんでいく
- 息を吸うときに「スーッ」「フーッ」と音がする → 胸で吸っているサイン
腹式呼吸の練習方法:
- 口を少し大きく開けて、あくびをするような形でゆっくり息を吸う(音がしないように)
- 吐くときは、お腹をしっかりへこませることを意識する
- 吸うときにお腹が自然に膨らんでいるか、鏡で確認する
お腹の前だけでなく、横や背中まで膨らむ感覚があれば、上手に吸えているサインです。この感覚がつかめると、音が変わります。
姿勢・アンブシュア・音域ごとの注意点
姿勢から確認します。正面を向いて立ち、足を肩幅程度に開く。右足を半歩ほど斜め後ろに下げてフルートを構えます。前屈みにならないこと、右手を後ろに引きすぎないことがポイントです。
音域ごとの息の使い方の違いは下の表の通りです。
| 音域 | 口の隙間 | 息のスピード | ポイント |
|---|---|---|---|
| 低音域 | やや大きく | 遅め | 息を下に押し込むイメージ |
| 中音域 | 音によって調整 | 音によって調整 | まず「ソ」の音を基準に練習 |
| 高音域 | 小さく | 細く速く | 上唇と下唇の隙間を極力小さく |
初心者のロングトーン練習は、中音域のド・シ・ラ・ソあたりから始めるのが無難です。これらは音の安定感が出やすく、練習効果が体感しやすい音域です。高音でやろうとして口に力が入るのは、ダメダメなパターンのひとつです。
吹き始めと吹き終わりで意識したいこと
ロングトーンで意外と見落とされるのが、吹き始めと吹き終わりの処理です。ここで息の量やスピードが急に変わると、音がぐらつきます。
よくある誤解として「息を長く続けるにはスピードを遅くすればいい」というものがあります。これだけでは不十分で、肝心なのは「いかに無駄なく効率よく息を使うか」です。
意識してほしいポイント:
- 吐く息の量を減らそうとするのではなく、アンブシュア(唇の形)を調節して息の量をコントロールする
- 「息を長く遠くに届かせる」イメージで吹くと、自然と息が整う
- 「長く伸ばせなかったらどうしよう」という緊張は、力みの原因になる
- リラックスした状態で吹くことが、音の安定につながる
アンブシュアを小さくすると息の量は減りますが、小さくしすぎると力が入って苦しくなるケースがあります。自然な呼吸ができる程度のアンブシュアを、鏡を見ながら探してみてください。
秒数を伸ばすための2つの練習アプローチ
「16拍まで伸ばしたい」という具体的な目標がある場合、アプローチの方向が2種類あります。どちらが合っているかは人によって違いますが、両方知っておくと選べます。
テンポ60から1拍ずつ積み上げていく方法
まず最もオーソドックスな方法から。メトロノームをBPM60に設定し、今できる拍数から1拍ずつ増やしていくやり方です。
手順としては:
- BPM60で8拍伸ばせるようになる
- 安定してできたら9拍、10拍と少しずつ増やす
- 同じ手順で16拍まで積み上げる
この方法の良さは、「今できる状態から積み上げる」ので無理が出にくいことです。焦りにくい反面、目標までに時間がかかると感じることもあります。
着実に進めたいタイプの子どもには合いやすい方法です。
テンポ120で先に長さの感覚をつかんでからテンポを落とす方法
もうひとつは、逆方向からのアプローチです。BPM120のテンポで16拍伸ばすところから練習を始め、そこからテンポを少しずつ落としていく方法です。
なぜこれが有効なのか。BPM60で8拍伸ばすのと、BPM120で16拍伸ばすのは、実際の演奏時間は同じ8秒です。つまり先に「16拍伸びている感覚」を体に覚えさせ、そこからゆっくりにしていくわけです。
手順はこうなります:
- BPM120で16拍伸ばす(実際の秒数はBPM60の8拍と同じ)
- 「16拍伸びている感覚」が定着したら、メトロノームを1ずつ遅くする
- 最終的にBPM60で16拍に到達する
ずっと「16拍出ている状態」で練習できるため、成功体験が続きやすいという特徴があります。音楽を教えてきた経験から言うと、こちらのアプローチで伸びる子の方が多い印象があります。
ロングトーンでよくある失敗と対処法
「毎日やっているのに変わらない」には必ず理由があります。よくある2つの壁と、その対処法をまとめます。
息が続かない——原因は吸い方と吐き方にあるケースが多い
息が続かない問題の多くは、吸い方の甘さと吐き方の非効率さにあるケースが多いです。楽器の問題ではなく、体の使い方の問題です。
まず確認したいのが、本当に腹式呼吸ができているかどうかです。胸式呼吸では、使える息の量が少なくなります。
息が続かないときの対処ステップ:
- おへその上に手を置いて姿勢を正す
- 鼻から4秒かけて息を吸い込み、おへそ周りが膨らんでいるか確認する
- 口をすぼめて8秒かけてゆっくり息を吐く
これを楽器なしでやるだけでも、腹式呼吸の感覚が体に入ってきます。
また、フルートは吐いた息の多くが管の外に逃げる構造です。「息が続かない」と感じやすいのはある意味この楽器の特性でもあるため、焦らず少しずつ改善していくことが大事です。実際に、ロングトーンを継続することで息の持ちが良くなったという話はよく出てきます。
音がかすれる・音程がズレる——アンブシュアとチューナー活用で改善できる可能性がある
音がかすれる場合は、まずアンブシュアの安定を疑います。フルートを吹くときの口の形が不安定だと、息の流れが乱れて音がかすれる原因になることがあります。
| 問題 | 原因の可能性 | 対策 |
|---|---|---|
| 音がかすれる | 唇の力み・位置のズレ | 鏡で唇の位置を確認。軽くリラックスした状態を保つ |
| 音程がズレる | 楽器の温度・頭部管の向き | 楽器を温めてから吹く。頭部管の角度を確認する |
| 特定の音だけズレる | 耳の未発達・音程の癖 | チューナーを使って音程の傾向を把握する |
フルートはピアノと違い、自分で音程をコントロールしなければいけない楽器です。最初からチューナーを使って一音ずつ丁寧に確認する練習が、音程感覚を育てる近道になることがあります。
音の口の形は「ウ」の口で「エー」と発音するようなイメージで作ると、息が柔らかく響きのある音になるという声があります。最初は「バサバサ」とした音でも、毎日続けることで変わっていきます。
アパチュア(息の通り道)が広すぎると息が散らばって音がかすれやすくなるため、息の通り道をやや狭くすることを意識してみてください。
家でできる息のトレーニンググッズ活用法
家で楽器が吹けない環境でも、息だけのトレーニングは続けられます。実際に使ってみて効果を感じた道具を2つ紹介します。
腹式呼吸エクセサイズ用ロングピロピロの使い方
吹き込むと筒がピロピロと伸びるアレ、ご存知ですよね。その腹式呼吸エクセサイズ専用版が存在します。
通常のものより吹き口が細く(直径3mmのストロングバージョンもある)、インナーマッスルを鍛えられる設計になっています。楽器を出せない場面でも、息の筋トレができるのが良いところです。
- マンションや夜間で楽器が吹けないときに使える
- 腹式呼吸の感覚を体に覚えさせるのに向いている
- 値段が手頃で手軽に始められる
腹式呼吸は、フルート上達のためだけでなく、心を落ち着かせる効果もあるとされています。勉強や練習の前に習慣にすると、集中力も変わってくるかもしれません。
ブレスビルダーで「一定量の息を保つ」感覚をつかむ
管楽器トレーニング用のグッズとして、「ブレスビルダー」というアイテムがあります。シリンダー内のボールを息で浮かし続けるトレーニング器具です。
フルートがある一定量の息を送り込まないと音が出ないのと同じように、このブレスビルダーも一定量以上の息を吹き込まないとボールが上がりません。「一定の息を保ち続ける」という感覚を集中的に練習できるのが特徴です。
- 息の量を一定に保つという、ロングトーンに直結したトレーニングができる
- 吹いても吸ってもボールが上がる設計なので、楽しみながら続けやすい
- 楽器を持つと指の動かし方に気が向いてしまうが、これは息だけに集中できる
ボールが上がるギリギリの息の強さで長く吹き続けることが練習のコツです。これが、楽器での音の安定に直接つながっていく感覚があります。価格は3,000〜4,000円程度で、道具として長く使えます。
まとめ:フルートのロングトーンは何秒続ければいいのか|効果的な練習時間の目安
BPM60で16拍(16秒)を、きれいな音で安定して出せること——これがロングトーン練習の現実的な目標です。30秒を無理に目指して音がボロボロになるより、16秒を美しく出し続ける力の方が、演奏の質を確実に上げます。

この記事で確認してきたポイントの整理
| テーマ | 要点 |
|---|---|
| 目標拍数 | BPM60で8〜16拍が基本。30拍は上級者でも難しい水準 |
| 練習の目的 | 「長く吹くこと」ではなく、音の安定・息のコントロールを養うこと |
| 腹式呼吸 | フルートの土台。胸式のままでは音は安定しない |
| 秒数を伸ばす方法 | ①1拍ずつ積み上げる ②BPM120から徐々に落としていく |
| よくある失敗 | 息が続かない/音がかすれる→アンブシュアとチューナーで対処 |
| 家でできるトレーニング | ロングピロピロ・ブレスビルダーで息の筋力を鍛えられる |
この内容を知った上で動き出せるかどうかで、お子さんの音楽の伸び方はまじで変わります。
何秒出せるかという数字に振り回されず、「どんな音で吹いているか」に目を向けること。それだけで、練習の質がひとつ上がります。
大切な青春のあの数年間、間違った方向に力を使ってほしくないです。正しい目的と方法を持って練習を続けたお子さんは、音楽を通じて得た感性や集中力を、大人になっても豊かに活かしていけます。
今日からひとつだけ変えてみてください。腹式呼吸を確認すること、それだけでいいです。

音高・音大を卒業し、中・高音楽教員免許を取得、吹奏楽の外部講師の経験をもとに、子どもの音楽教育について日々深く考えながら子育てをしています。自分の子どもにも音楽の楽しさと学ぶ喜びを大切に伝え、成長を感じてきました。
私が大切にしているのは、子どもが音楽を嫌いにならず、自分らしい感性を育みながら、本当に成果につながる学び方を親子で見つけていくことです。間違った練習や無駄な学習で大切な数年間を失うことなく、親御さんと二人三脚で歩み、お子さまの青春の時間を実りあるものにするお手伝いをしたいと考えています。
未来の日本を担う子どもたちと、そのかけがえのない親御さんを支え、音楽を通して豊かな心と希望を育てることが私の願いです。


